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芹沢の声にハッと我に返った花緋は慌てて芹沢と店の主人の間に割って入る。
「な、何をしているんですか芹沢さん!?
この人が一体何をしたって言うんですか!!
第一丸腰の人間にそんな――」
「黙れ」
芹沢から発せられた地を這うような低い声に花緋は言葉を遮られた。
花緋は息を詰まらせて恐る恐る芹沢を見上げる。
芹沢の目は鈍く光り、怒りを灯していた。
花緋は思わずゴクリと唾を飲む。
そんな花緋を見下しながら芹沢は鼻を鳴らして、鉄扇を主人の喉元から花緋の額へとゆっくりと向かわせる。
鉄扇の先が微かに額に当たり、そこから冷たい感触が伝わってそれが余計に花緋の恐怖心を駆り立てた。
「女ならいくら儂に楯突いても許してもらえるとでも思っているのか?」
濁った目を花緋に向けながら芹沢は鉄扇を持つ手に少し力を入れた。
芹沢からは強烈な酒の臭いが立ち込めている。
きっとかなり飲んだのだろう。
花緋は芹沢から目を反らせずに恐怖に目を見開きながら、ただただ芹沢を見上げる。
しかしそんな何も言わない花緋に芹沢は益々機嫌を損ねたのか、更に口調を荒げた。
「何とか言わぬか!!その口は飾りではあるまい!!」
芹沢の怒声に花緋はビクリと肩を震わせて、ハッとする。
隣をチラリと盗み見た。
そこにはオロオロと顔を青ざめさせて、花緋を心配そうに見る店の主人の姿。
とてもじゃないが、悪いことをするような人には見えない。
(――この人にきっと罪はない。
……そうだ、私がこの人を守らなくちゃ……壬生浪士組を壬生狼だなんて呼ばせるわけにはいかないもの)
花緋はそう心に決めると、小さく息を吸ってゆっくりと怒れる芹沢に目を向けた。
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