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「近頃、妙な噂を耳にしたんだが……」
それから何日か経ったある日、夕飯の最中に土方は唐突に話を切り出した。
その声に、一同は箸を止めて土方を見る。
「何やら浪士組数名が京の町で、日々強奪紛いの押し借りを繰り返しているとか」
言いながら、目を光らせて一同を見回す。
その言葉に何を云わんとするか気付いた芹沢派や花緋がハッとすると、芹沢はピクリと眉を動かしゆっくりと箸を膳に置く。
「なんだ、えらく遠回しな物言いをするものだ。『芹沢が』とはっきり申せば良いものを」
クックッと肩で笑いながら、土方に目線をやる芹沢。
言い訳する気は毛頭無いらしい。
「ふっ、ならば話は早い。貴方のやり方は町民に我々に対しての不満を抱かせるだけだ。今少しばかり在り方を謹んでいただきたい」
立場上、下手に出ているようではあるが、挑むような目を芹沢に向ける。
近藤は隣で心配そうに眉を下げるも、二人の間に入れないでいた。
そんな土方の言葉に、芹沢は鼻で笑いながら一蹴して鉄扇を広げる。
「ふん、貴様らの目の前にあるこの膳。一体誰のお陰でそこに並んでいると思うのだ?
儂が金策をしなければ、貴様らは十日もせぬ内に飢え死にしてしまうわ」
「…………っ」
芹沢の言葉に、土方は苦虫を噛んだように押し黙る。尤もな台詞に二の句が告げないのだ。
確かに幕府からの給金が全く無いこの状況下で、芹沢の金策だけが唯一の収入源。
しかし、このままのやり方で金策を続けられては京の民からは永遠に“壬生狼”としてしか見られないだろう。
それは、自分達がなりたかった武士の形では決してない。
しかし返す言葉が見つからない土方達は、ふんぞり返る芹沢の笑い声を聞きながら唇を噛み締めるしかなかった。
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