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「土方さん!」
重苦しい雰囲気の夕飯が終わり各々散らばる道すがら、花緋は自分の前を行く土方を呼び止めた。
花緋の声に、ゆっくりと振り返る土方。心なしか元気が無いのは気のせいではないだろう。
「なんだ風間。お前は今から見回りだろう」
「はい、ですがその前にちょっとだけ……」
土方の側に駆け寄ると、真剣な眼差しで口を開く。
「実はこの前、私も居合わせたんです……芹沢さん達が押し借りをしているところに」
「なに?」
目を剥く土方。
「悲しい事ですが、京の人達は浪士の集まりの私達に元々いい感情を持っていません。それに加え、幾度にも渡る押し借りのせいで人々の口からは“壬生狼”などと蔑む言葉ばかりが飛び交っていました」
「…………だろうな」
花緋の言葉にそう呟いて、眉間に皺を刻みながらも悲しい顔で俯く。
そんな土方を見た花緋は、フッと笑って土方の眉間に人差し指をチョンと当てた。
思わず土方がキョトンとして顔を上げる。
「そんな顔しないで土方さん。私を芹沢さんにつけて貰えませんか?」
「はぁ?お前一体何を……」
「人事を取り仕切ってるのは土方さんなんでしょ?お願いします土方さん。このまま手を子招いてる訳にはいかないもの」
そう言って微笑む花緋に土方は困惑の表情を浮かべながらも、京へ来る道中の焚き火騒動の事を思い起こし『花緋ならばもしや……』という考えが脳裏を横切ったのだった。
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