“綻”

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かくして、花緋は芹沢の暴走を止めるべく土方と共に密かに動き出す。 まずは沖田の元から芹沢派の方への異動。 理由を詳しく聞かされていない沖田は急の事に土方に是非を問うが、曖昧にはぐらかされるだけだった。 それは花緋も同じで、『大丈夫だから』と凛とした表情で微笑むのみ。 沖田はなすすべもなく、ただ花緋を見守ることしかできなかった。 「皆さん、今日付けで芹沢さんの小姓を言い渡されましたのでよろしくお願い申しあげます」 芹沢を中心に側に佇む芹沢派の面々に深く頭を下げながら挨拶をする。 これから暫くは、完全にこの芹沢派と共に行動するのだ。 新見だけじゃなく、他の3人とも少しは親しくならなければいけない。 「待っておったぞ、花緋。この前はすまんかったな……」 どうやら今日は酒が入っていないらしい。芹沢は素直にこの前の一件の事を謝った。 そう、酒さえ入ってなければこの方は心根の優しい人物なのだ。 諸悪は全て、酒。 花緋は芹沢にふんわりと微笑む。 「今日はお酒召し上がってないようですね、私はこの芹沢さんの方が好きです」 「ふっ、お前は本当に面白い奴だ。臆する事もなく儂にそんな物言いをする奴はなかなかおらん」 確かに、と新見は思う。 今まで長い事芹沢と行動を共にしてきたが、寄ってくる連中はどれも芹沢のご機嫌を取り、媚びへつらう人間ばかり。 花緋のように面と向かって、本心をさらけ出す者など見たことがなかった。 それによって、新見は花緋の事を一目置くようになったのだ。 そしてその影響からか、一度だって逆らった事のなかった新見は例の件で初めて芹沢に意見したのは記憶に新しい。 .
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