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その日の夕方、待ちに待った隊服が屯所に届いた。
「はい、これ風間のだよ」
浅葱色のそれを藤堂に手渡された花緋は、ありがとうと笑って受け取る。
ゆっくりと広げてみると、浅葱色の麻の生地に袖口に白く染め抜いた山形のダンダラ模様。
それはとても見覚えのある模様の隊服だった。
思わず藤堂を見る。
「これって……」
「うん、『忠臣蔵』の羽織の模様だね」
この時代、『忠臣蔵』を知らない人間は少ないだろう。
歌舞伎の中でも特に大人気でとても馴染みの深い話だ。
この隊服が、その忠臣蔵の舞台で赤穂浪士が着た羽織にならって作られたのは一目瞭然である。
みんなに隊服が行き渡ったのを確認すると、芹沢が鉄扇をパチンと鳴らした。
「見たら分かると思うが、これは仮名手本忠臣蔵の赤穂浪士の羽織に似せて作らせた。そしてこの浅葱色は切腹裃の色だ」
「切腹裃……」
花緋がポツリと呟くと、芹沢は口角をつり上げて頷く。
「切腹する時に着る着物と裃だ。いいかお前ら、この隊服を身に纏う以上『義』のために命を賭ける志と常に『死』を意識する潔さを自覚しろ。それが出来ない野郎はコレに袖を通す資格は無いと思え」
ドクン
芹沢の言葉に、花緋の胸が高鳴る。
覚悟の為につけた手の平の傷跡に目をやる。
暫く見つめ、ゆっくりと手の平を握りしめた。
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