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「芹沢さん、菱屋さんが表にいらしてますけど。以前仕立てた着物の代金を払って欲しいと」
昼間から自室で寝転んでくつろぐ芹沢に花緋が声をかけると、体を起こさぬままめんどくさそうに顔だけ向けた。
「またか……追い返せ、全くしつこい親父だ」
いつまでもお金を払わない芹沢が悪いのでは、と思ったが何とかその言葉を呑み込み、少し冷ややかな目を芹沢に向けながら口を開く。
「今回は旦那さんじゃなくて、女将さんがいらしてますよ」
「女将が?あの親父、自分じゃどうにもならんと思って女を寄越してきやがったのか」
クックッと笑う芹沢。花緋がため息をつく。
「少しずつでも、支払いをしていったら如何ですか?こう何度も足を運ばせては菱屋さんに申し訳が立ちませんよ」
「……美人か?」
「は?」
……全く人の話を聞いてないな。
がっくりと項垂れる。
元から払う気なんてさらさら無いんだろう。
「とても美しい方ですよ。京の女性ならではの品と色気があるというか」
その言葉を聞いた芹沢は何故か体を起こす。
「ほぉ、それは一度拝まねばな。その女を連れて参れ」
さっきは追い返せって言ったくせに、美人と知ったらこれだ。
「お金払うんですか?」
「それは女によるな」
きっぱりと言い放つ芹沢に、呆れる花緋。
つまりは自分の好みだったら払ってやらんこともない……そういう事だろう。
何となく納得のいかないながらも、少しでも支払ってくれるかもしれないという希望を持って、花緋は菱屋の女将の元へと急いだ。
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