878人が本棚に入れています
本棚に追加
この菱屋の女将、名をお梅といい巷ではなかなか有名な超美人である。
以前、町に出た時に聞いた噂では旦那のお妾さんらしい。
「えらい可愛いらしいお侍さんどすなぁ」
「えっ、あ、どうも……」
芹沢の所へ案内している最中、お梅は花緋を見て微笑みながら言う。
花緋はどんな反応をしていいのか分からずに、曖昧に返した。
男ならその笑顔で間違いなく惚れるな……そんな事をぼんやり考えながらまた歩きだした。
……少し嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
「芹沢さん、連れて参りました」
声をかけて襖を開け、お梅を中へ促す。
しずしずと部屋に入ってきたお梅を見た芹沢が、思わず息を飲むのが分かった。
「えろうすんまへん、旦那はんの遣いに来ました梅言いますぅ。申し訳あらしませんけど先日用立てたお代ちょうだいしに参りました」
そう言ってたおやかにお辞儀をするお梅を、芹沢はジッと見つめる。
「生憎だが、今はあまり手持ちの金がない。とりあえずはこれを旦那に渡して貰えるだろうか」
何と、渋りもせず自ら金をお梅に渡す芹沢。
これには花緋も目を剥く。
余程お梅が自分好みだったのだろう。
何にせよすんなりと芹沢が金を払ったことに安堵する花緋。
お梅に渡したのは小銭合わせて約3両。
全てを精算するにはあと27両も足りない。
目で金を数えたお梅は、少し困った顔で芹沢を仰ぐ。
「堪忍ですけど芹沢センセ……これっぽっちしか持って帰らへんかったら、うち旦那はんに叱られてしまうわ」
そう言って目を伏せる。
そんなお梅の言葉に、芹沢はふんぞり返って鉄扇を仰ぐ。
「ではまた明日取りに来るがいい。お前が取りに来たならまた金を払ってやる」
「へ、へぇ……」
少し戸惑いながらも、仕方なく頷くお梅。
芹沢の見え見えの下心に、花緋は一人顔をしかめた。
.
最初のコメントを投稿しよう!