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2人にとって花緋はまるで本当の妹のように大切な存在だった。
逆に、花緋も2人を本当の兄のように慕っていた。
家が近所だったせいもあり3人は憎まれ口を叩きながらもこの丘に来る時以外はほとんど一緒にいた。
それというのもここに通じるけもの道は小さな女の子がほいほいと歩けるような場所ではなかったからだ。
だから晋作と栄太郎はここに来る時は花緋は連れて来なかったし、花緋も2人を困らせたくないために無理やりついていくという事もしなかった。
今回、初めてだったのだ。
花緋がついていくといって聞かなかったのは。
そして今花緋の口から聞いてその理由も分かった。
花緋は何としても母に喜んでもらいたかったのだ。
『きれいね』と涙を流す母に、近くで桜を感じてもらいたかったのだ。
もうきっとー…自分の足で母がここに来れる事はないと分かっているから。
それでもその桜で少しでも母の体調が良くなれば…と願って。
2人にはそんな花緋の心情が手に取るように分かった。
でも必要以上に花緋を慰めたりしない。
それは花緋が逆に辛くなるだけだから。
晋作は花緋の頭をぽんぽんと軽くたたくと、何も言わずに桜の木を軽い身のこなしで登っていった。
「……?」
晋作の行動に花緋と栄太郎がきょとんとしていると、晋作はすぐにストッと降り立って地に足をつける。
手には一本の桜の枝。
花びらが綺麗に咲き誇っていた。
花緋の前まで歩み寄ると、持っていた桜の枝をずいっと花緋に押し付ける。
押し付けられた花緋は思わず枝を両手に抱える。
「…やる」
それだけ言うと、あぐらをかいてドカッと腰を降ろす晋作。
そんな晋作に花緋は我に帰る。
「ちょ、ちょっと晋ちゃん!枝折ったらダメだよ、木だって生きてるんだよ!?
私は落ちてる花を持って帰ろうと思ってたのに」
眉間に皺を寄せて抗議する花緋に晋作はめんどくさそうに頭をガシガシする。
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