“別”

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「あのなぁ、見舞いに落ちてる花なんかやらねーだろ普通」 「うっ…そ、それはそうかもしれないけど…。でも!」 「それに」 「…?」 まだ納得のいっていない様子の花緋に晋作はフンと鼻をならして遮ると花緋は首を傾げる。 「お前の気持ちを桜の木はちゃんと聞いてた。 そういう想いでここに来たお前になら桜だって喜んで枝を折らせてやるってもんだ。絶対怒ったりしねぇよ」 そう言いながらまた花緋から顔を逸らす。 あ、また照れてる。 晋作にしてはかなり臭い台詞をはいたのだ。 照れ屋の晋作にとってはとてつもなく照れくさかったのは当たり前だろう。 でもそんな自分のために恥をこらえて言ってくれた晋作が、花緋にはたまらなく嬉しかった。 「桜がそんな事で怒るような薄情なヤツに見えるか?」 相変わらずそっぽを向きながら話す晋作に、花緋は顔を綻ばせて笑う。 「ううん、見えない」 花緋がそう言うと、晋作は目だけチラッと花緋に向けて自慢気な顔で口の端を吊り上げる。 「だろ?じゃお礼だけ言って有り難く受け取っとけ」 「うん」 花緋は晋作の言葉に頷くと、先ほど晋作がくれた桜の枝を手に桜に向かって深々とお辞儀をする。 「桜さん、有難うございます。 この桜必ずお母さんに渡しますから」 そう言って花緋がニッコリ笑うと、ふいに風がそよいでフワッと桜吹雪が3人を包み込む。 「きれい…」 桜吹雪に包まれながら息を呑む花緋。 それは正に雪のようにはらはらと舞い、儚げでとても美しかった。 風が止むと桜吹雪もやみ、3人の頭や着物には幾つもの桜の花びらが付いていた。 髪の毛についた花びらを手に取り、晋作はぼそりと声を漏らす。 「…あんなの初めて見た…」 呆然と花びらを見つめる晋作にクスッと笑いながら栄太郎は桜を見上げた。 「きっと花緋にどういたしましてって言いたかったんだよ」 栄太郎の言葉に花緋も桜を見上げ、意志の強い瞳でもう一度ありがとう、と呟いた。 .
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