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「明日は2人共松陰先生のとこ?」
行きに走ったけもの道を今度は3人で話をしながらゆっくり帰る。
「ああ、明日は朝から稽古もあるしな」
「松陰先生明日は1日塾に居られるんだよ」
花緋の問いに2人は何だか嬉しげに話す。
「そっかぁ…」
そんな2人の様子に軽くしょげる花緋。
ー松陰先生。
この村で“松下村塾”という寺子屋を開いている吉田松陰という人物である。
吉田松陰は日本をより良いものにしようと、日々その思想を広めるべく活動している思想家。
忙しいながらも時間を見つけては塾で子共達に学問や剣術を教えており、2人もそんな松陰先生の生徒のひとりだった。
花緋は女の子だということもあり塾には行っておらず、2人が塾に行ってしまうと遊ぶ相手がいなくなるためあまりいい気持ちではなかった。しかも『1日』ということは明日は1人で過ごす事決定だ。
ーー明日はどこで時間潰そうかな…
ぼんやりと考える。
家で過ごすつもりはない。
私が家にいるとお母さんは咳をしてる所を見せないように気を使ってちゃんと休めない。
だから昼間はなるべく外にいた。
お母さんの世話は働いてるお父さんの代わりにおばあちゃんが看てる。
お母さんの負担にだけはなりたくなかった。
暗い表情の花緋に栄太郎は悲しく微笑みながら花緋の小さな頭をよしよしと撫でた。
「ごめんね、花緋?明日終わったらちょっとでも会いにいくから」
花緋は悲しそうに微笑む栄太郎を見て、気を使わせてしまったと反省した。
「ご、ごめんなさい!私なら気にしなくていいんだよ?
ほら、たまには女の子とも遊びたいし」
ウソ。本当は女の子の友達なんていない。
それどころか晋作と栄太郎以外は花緋に…いや、花緋の家族には近寄ろうとはしない。
だから花緋には2人以外に友達などいなかった。
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