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【労咳】
それが花緋の母親の病名。
不治の病な上、感染力もある。
やっかいな病だ。
しかし体調に気を配って健康を保っておけば、感染したとしても容易に発症するものではない。
村の連中は喋っただけで労咳になってしまうと思い込んで、花緋とその家族を疎外している。
ーー馬鹿共が…
心の中で毒づく。
花緋のどこが“汚らわしい”?
母を喜ばせるためにこんな所まで必死に桜を取りに来た花緋。
その心は純粋以外の何物でもない。
ーーコイツをそんな目でしか見れないお前らの方がよっぽどきたねぇよ。
コイツの苦しみも知らないクセに。
コイツがこんな小さい身体で頑張ってるのに。
村の連中に苛立ちがつのる。
花緋に目をやると、でこぼこに足を取られないように必死になってちょこちょこ歩いている。
晋作はそんな花緋を思いつめた目で見る。
「晋作」
不意に、栄太郎の声が呼ぶ。
晋作が目をやると、いつものように穏やかに微笑む栄太郎。
「僕、多分今晋作と同じこと考えてたよ」
栄太郎が言うと、晋作もフッと微かに笑みを漏らす。
ーー花緋は、俺達が守る。
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