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正直この2つを越えるくらい魅力的な文化祭の企画は、そうそう滅多にあるものではなかろう。
コストやツテ、正直言って難題が山積している。
もはや難題しか転がっていないのが目に見えている。
だがやってやれなさそうな難題ではなかろう。
芸人のギャラで金を1億用意するだとか、トークショーとやらに総理大臣を呼ぶだとか、そういった事はまず出てこないだろう。
しかし無論、両者を採用してやる訳にはいかない。
「……」
これが、片一方がとてつもなく悪趣味だとか、ウケに明らかに偏りがあるだとか、そもそも企画自体がぶっとんでいるとかであれば、採決をとる間でもない。
だが、実際はどちらの案も、実現性も客の食い付きもよさそうだ。
「明日……」
ゼミ室が静まり、吉澤に注目が集まる。
「いや、明後日……。
それまでにお笑いのライブか、ラジオか、意思を固めてこい。
明後日に採決をとる。
今日はこれで解散する、おつかれさん」
委員が席を立ち、ゼミ室を出ていく。
「俺は……、どうするかな……」
チーフという立場からの『アドバイス』は、『トップダウン』に繋がりかねない。
命令だけはしたくない、吉澤のこだわりだった。
やはり『企画』のための『チーム』である以上、9月までかける余裕は無いにしても、チーフである自分が頭ごなしに命令するのは好ましくない。
どんなにアホらしいと思える意見であっても、それがアホらしい事である根拠を話し合う事だってしなければならない。
腹に来てもそれが『企画チーム』なのだから仕方がない。
運命みたいなものだ。
切磋琢磨とは上手い具合にいかなくとも、時にしのぎを削る勢いで意見をぶつけ、時に自分の意見を見直し、妥協点を探し、アホらしい事も全力でやって、初めて高評価がもらえるのだ。
いや、それでもボロクソに言われるかも知れない。
だがとにもかくにも、『トップダウン』というのはそれら委員の有効な活動をぶち壊す可能性すらある。
吉澤の言葉は時に宝箱でありながら、時に巨大な爆弾にもなりかねないのだ。
そういう意味で、吉澤は自分の意見を言わないという事を、チーフとしてのプリンシプルであった。
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