プロローグ

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 とある県、とある商店街の細い路地に入り、階段を下りた所にひっそりとある定食屋「月波亭」。 美味い、安い、山盛りで学生の間で人気である。ただし開いているのは昼食時だけ。 そう思われていたが実は木曜日の夜、ひっそりと開店していた。  内部は淡いオレンジの光に壁はレンガ造りという事もあり、定食屋と知らなければ喫茶店にも見える。 席は僅か6つ。入って左手にカウンター席が2つ、右手には壁に引っ付いたテーブルの周りに4つである。椅子はいずれも床に固定された回転椅子である。席は少ないが1つ1つは割かしゆったりと座れるように出来ている。  そして何と言っても目に付くのが、テーブルがある食堂奥の広いスペースである。店長シゲさんの趣味か実に種々多様な物が「展示」 されている。 大きな壺や壁に掛かった絵画に始まり、小さなテーブル、その上に置かれたガラスのチェスセット。様々な形の椅子。その中には小学校で使った様な学習椅子まである。  そうかと思えば壁の一部は本棚になっている。「本」 で作った本棚。松葉杖を壁に取り付け、その上に板を置き辞書等はそこに綺麗に並べてある。 脈絡も無く様々な物があるが、不思議なバランスを保ち下品には見えない。そのスペースはむしろ洒落た雑貨屋の雰囲気さえある。 「どれでもお好きに触ったりお使い下さい」 とシゲさんは言うが、絵画や壺に触ろうとする者はなかなかいない。 「さてさて、今夜はお客様からどんな話が聞けるのだろう」 そう思いながらシゲさんは今夜もひっそりと店を開ける。
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