【第一話:消えた一撃】

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 月波亭の店内では一人の男が煙草を吸っている。 座っている椅子は入口から見てテーブルの奥側、壁際の席である。 長身のがっしりとした筋肉質の体に、ワックスで立てた短い黒髪が特徴的である。 男の名は中田功太(ナカタ コウタ)。尾灯(ビトウ)大学経済学部3年生である。 カランと音が鳴り、男が1人入って来ると中田は「おう、将ちゃん」 と声を掛け煙草を持った右手を挙げた。 将ちゃんと声を掛けられた男は経済学部3年、富野将平(トミノ ショウヘイ)である。 「まだみんなは来てないんやね」 と言うと富野は中田の対角線上の席に腰を下ろし、壁際の席に背負っていたリュックを置いた。 茶髪に高い鼻、キリッとした顔立ちは男前なのだが、剃りすぎて青くなっている眉のせいで少々損をしている。 「まぁそろそろあいつらも来るだろ」 そう言うと、中田は2本目の煙草に火を付けた。富野も「やね」 と返事をしシゲさんに挨拶をする。
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