227人が本棚に入れています
本棚に追加
やはり昨晩は飲み過ぎた、と瀬希(せき)は後悔した。頭が鈍痛でくらくらする。体はだるくて起きる気にもなれない。
「うぇぇ……気持ち悪っ」
夏の二日酔いは酷だ。蒸し暑い空気が漂う部屋の中、胃液が逆流して喉元まで上がってくるのを必死に耐えた。柔らかな布団に散らばる自分の髪の毛を見ていると、今度は眠気に襲われて瞼が徐々に重くなっていく。
「瀬希はん! たいがい起きよし!」
睡魔に身を委ねようとしたその時、部屋の襖が乱暴に開かれてしゃがれた声が間髪入れず頭に響いた。狭まる視界に白い足袋が映る。
現れたのは半年ほど世話になっている福田屋の女将、福田志乃だった。
「うるせぇ。頭に響く」
「うるっ!? さっさと起きろ。この酔っ払い糞餓鬼!」
志乃に大きく体を揺さぶられるせいで耐えた胃液がまた逆流しそうになり、瀬希は慌てて起き上がった。
最初のコメントを投稿しよう!