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「藤堂さーん。妙です」
死を覚悟したその時、場にそぐわない声が聞こえた。語尾がやたら高く、甘ったるい声だった。
(女? 誰だ?)
瀬希は何が起こったのか知りたくなり、恐々と目を開いた。
目の前には眉間に深い皺を作り、口を真一文字に結んだ藤堂が未だ怒りを抱えていた。
「……藤堂さん、刀は」
振り下ろされる筈の鋒が見当たらない。よく見れば藤堂は刀を握っていなかった。彼の腰に据えられた脇差しは抜かれておらず、その刃は鞘の中で守られていた。
「刀なんて何使うの? まさか瀬希君、僕に斬られるとでも思った?」
「えっ! いや……えっと思いました」
今更隠す必要もなく、正直に答えた。
(あんな顔されたら誰だって思うわ!)
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