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瀬希は口に出せない本音を心の中で大いに叫んだ。
「いくらなんでもそんなことしないよ」
「……ですよね」
斬られないと分かった途端、肩の力が抜けて安堵の息を吐いた。
そもそも親切で優しい藤堂が女子のようだと思われたぐらいで人を殺めたりしないだろう。後先考えもしないで躊躇わずに刀を抜いてしまう自身とは違う。瀬希の脳裏に今この場にない愛刀が過った。
「あ、でも殺意はあったから」
「へ?」
「命拾いしたね」
藤堂は般若の如く不気味な笑みを浮かべ、口の端が小刻みに引きつっていた。
「す、すんません」
「分かってくれてありがとう。そういえば呼び出しがあったね。お妙さん入っていいですよ」
機嫌を直した藤堂が襖越しに廊下に声を掛けると、襖は静かに開かれた。
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