プロローグ

2/2
前へ
/46ページ
次へ
ここはとある学校のアーチェリー場。 「あーつまんねぇー。」 他の部員に聞こえない程小さな声でぼそりと呟いた青年、佐藤健一がこの物語の主人公である。 「大体、こんな点数が悪いのに集中して射ってられるかってーの。」 点数が伸び悩むあまり愚痴ばかり零している。 そこで健一は練習をサボる事を考え、主将に 「先輩、ちょっとトイレに行きたいので“あの隙間”を使ってもいいですか?」 と、一言。 事故防止の為にアーチェリー場と部室棟を区切るように張られた巨大なネットがあり、“隙間”とはそのネットに出来た裂け目である。 健一を含めた一部の部員はこれを東方projectのキャラクターである八雲紫が作りだす空間の境界、“スキマ”に被せて“隙間”と呼んでいる。 ちなみにトイレは部室棟のさらに向こうにあるのだが、アーチェリー場の本来の出入り口はトイレとは真逆の方向にあり、そこから隣接されたテニスコートを外周沿いに歩いてやっと行き着くのだ。 つまり、その“隙間”を通る事でテニスコートの周りを歩く必要が無く、大幅な移動時間の短縮に繋がるわけである。 先輩に行ってらっしゃいと言われ、やや急ぎ足で隙間へ向かう健一。 仕切りの裂け目の手前に来ていつもの“隙間”が無い事に気付いた。 しかし、そこで立ち止まるとトイレへ急いでいる事になっている健一に不都合が生じるのでそのまま突き進んだ。 そう、本物の“スキマ”へと。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加