97人が本棚に入れています
本棚に追加
「それにしても、急に降ってきたな」
「そうだなぁ。さっきまで、小降りだったのによ」
「もうこんな時期になったんだな。わざわざあそこを抜け出して来たのに、とんだ災難だ」
「お前が勝手に来たんだ。自業自得っていうだろ」
「冗談だ。寧ろ帰れない口実が出来て、好きなだけ本が読める」
そうか、そうか、と馬人は満足げに相槌を打つ。
「そんなに俺の本が気に入ったか」
「実際、昔から唯一の娯楽だからな」
言い終えるなり、彼は欠伸をした。まだ眠れそうにもないが、僅かな疲労感が彼の全身を巡っていた。
「本、片付けろよ」
物書きがそれを聞いているかどうか、判断はつかなかったが、彼はそのまま目を閉じた。あの不快な音は、相変わらず耳に張り付いている。
最初のコメントを投稿しよう!