赤の章 紅梅

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「それにしても、急に降ってきたな」 「そうだなぁ。さっきまで、小降りだったのによ」 「もうこんな時期になったんだな。わざわざあそこを抜け出して来たのに、とんだ災難だ」 「お前が勝手に来たんだ。自業自得っていうだろ」 「冗談だ。寧ろ帰れない口実が出来て、好きなだけ本が読める」  そうか、そうか、と馬人は満足げに相槌を打つ。 「そんなに俺の本が気に入ったか」 「実際、昔から唯一の娯楽だからな」  言い終えるなり、彼は欠伸をした。まだ眠れそうにもないが、僅かな疲労感が彼の全身を巡っていた。 「本、片付けろよ」  物書きがそれを聞いているかどうか、判断はつかなかったが、彼はそのまま目を閉じた。あの不快な音は、相変わらず耳に張り付いている。
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