赤の章 紅梅

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 寒々しい空気を縫って、気品ある香りが漂う。暗闇に灯る何とも頼りない光が、部屋の壁に人影を映している。  空は重苦しく垂れ込み、頻りに雨を降らせている。雨粒が当たる度に、室内にざあざあと不快な音が騒ぎ立てる。  しかしながら、彼の耳には紙を捲ることで生じる、擦れたその音しか届いていなかった。彼には、集中すると外界から自分自身を遮断する癖があるようだ。  この軽快な騒音に顔をしかめることもなく、一心不乱に文章を読み取っていれるのも、その癖によるのだろう。
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