ノイズに紛れて愛を拾う

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僕の日課はラジオを聞くこと。 別に娯楽のためとか、情報を得るためだとか、そんなんじゃない。 「あるもの」のために、僕はラジオを聞いている。 初めてソレに気付いたのは、数週間前だった…はずだ。 ここにはカレンダーなんて無いから、日の流れが分からない。 僕は薄暗く汚い路地裏にいる。 親や兄弟なんていない。昔はいた気がするけど、もう顔も覚えていない。 施設にもいたけど、抜け出した。 誰も、僕を愛してくれないから。 僕の目は左右で色が違う。 片方は空色、もう片方は血のように赤い。 赤い方は眼帯で隠している。 みんな、僕の目を「気持ち悪い」と言った。 施設の先生はそんなこと言わなかったけれど、僕を見る目は化物を見るようなソレで。 だから僕は、施設を抜け出した。 どこへ行くでもなくふらふらと歩き続けて、この路地裏に辿り着いた。 そしてそこで、壊れたラジオを拾った。 電源を入れると、サァァァァ…と言うノイズだけが流れる。 アンテナが折れているせいだろうか、上手く電波を拾わない。 くるくるとチューナーを回してチャンネルを変えてみるも、どこからも音は聞こえてこない。 仕方なく電源を切ろうとしたところで、ザザッという雑音と、男性の声が聞こえてきた。 『あ…ザザッ…ぃして、る…ザッ…』 「!」 「愛してる」と男の声は言った。歌でもラジオでも無い音。 多分、どこかの電話か無線かの電波を偶然拾ったのだろう。 「(『愛してる』って、初めて言われた…)」 よく分からない感動が胸中を巡る。 もちろん、男性が「愛してる」て言った相手が僕でないのは分かっている。 けれど、とても嬉しかった。 愛しそうに言う彼の「愛してる」が、僕の心を満たした。 それから僕は、ずっとラジオを点けている。 ラジオを聞くことは日課になった。 どこの誰かも知らない、彼の「愛してる」のために。 ノイズに紛れて愛を拾う (誰でも良い、僕を愛して)
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