あなたひとりしかいない(aph)

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暖かな風が、ふわふわと彼女の髪を揺らす。 女性にしては短すぎるそれに、俺は指を絡めた。 「勿体ないよなぁ…」 「何がですか?」 俺になされるがままになっていた彼女は、主語の無い俺の言葉に首を傾げる。 「髪の毛。凄く可愛かっただろうに、切るなんて勿体ないよ」 「しょうがないですよ。髪が長くては戦いの時に邪魔になります」 困ったように、哀しげに、彼女は自分の短い髪を一房つまんで微笑んだ。 彼女も年頃の娘なんだ、本当は長いままでいたかっただろうに。 戦いのせいで、俺のせいで。 彼女は重い甲冑を身にまとい、血なまぐさい戦場を駆ける。 細い腕で剣を掲げて。 女であることを捨てて。 「……ごめんね、ジャンヌ」 彼女を聖女に仕立てあげたのは俺の国だ。 こんなにも可愛らしい彼女を戦場に駆り出したのも。 彼女は聖女なんかじゃない、普通の女の子なんだ。 普通に友人と喋るのが好きだったり、人並みに恋だってする。 どこにでもいる、女の子なんだ。 なのに それなのに、俺は… 「フランシスさん」 ちょいちょい、と肩をつつかれて彼女を見下ろすと、ふわりと微笑みをたたえていた。 「私なら、大丈夫ですよ」 「ジャンヌ…」 「私は、後悔なんてしてません」 きっぱりと言った彼女の瞳は、真っ直ぐだった。 「それと、ですね…」 今までの凛とした彼女から一転、少し恥じらうような仕草をする。 そして俺の耳元まで顔を近付け、囁いた。 「 」 あぁ、何て可愛い事を言ってくれるんだろうか。 俺は思いっきり彼女を抱き締める。 彼女も遠慮がちに背中に腕を回してくれた。 あなたひとりしかいない (私が心まで捧げる人なんて) (この戦いが終わったら、一緒にどこかに遊びに行こう) (はい、約束ですよ?) お題配布元→「確かに恋だった」
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