略奪愛なんて夢のまた夢

2/3
前へ
/26ページ
次へ
俺には、好きなヤツがいる。 そいつは同じ学年同じクラスの、男だ。 一応言っておくが、俺にそういう趣味は無い。 ただ、好きになったヤツが男だっただけで、俺は普通に女の子が好きだ。 けれど、そんな俺の想い人――酒井拓海には、片想いをしている相手がいるとの事。 放課後、ちょうど1人でいたところを捕まえ、何とか相手の名前を聞き出した。 拓海の片想いの相手の名前は杉井竜希。 俺の、双子の兄だった。 「絶対、誰にも言うなよ!?」 男が好きだとか、何かアレだろ?なんて必死に俺に口止めしようとしている。 その表情はまるで恋をしている女子のそれに似ていて。 なんだか、イライラとした。 「言わねぇよ。…てかさ、アイツのどこが好きなんだよ」 「えー?…優しいとこ…とか?」 拓海はそう言って嬉しそうに微笑む。 なんで なんで なんで どうして、 「アイツ、彼女いるぞ」 俺はそんな意地悪な事を拓海に言った。 拓海は今までの嬉しそうな笑みから一転、哀しげな笑みを浮かべた。 「うん、知ってる」 「じゃあ…何で」 うーん、とうなって、今度は困ったような笑み。 「…それでも、竜希の事が好きだからかなぁ。諦めきれないんだよね」 無理に笑ったようなその笑顔に、俺は胸がズキンと痛んだ。 「(俺だったら、こんな顔はさせないのに)」 気が付けば、俺は拓海を抱き締めていた。 「!?ちょっ…壱希?」 「…………んでだよ」 「え?」 俺は、拓海を抱き締める腕に力を籠める。 「何で、アイツなんだよ…」 「…いつ、き?」 拓海はワケが分からないと言うような声で俺の名前を呼ぶ。 「…なぁ、俺じゃ、ダメか?」 「壱希…」 「俺なら、拓海を悲しませたりしない!だから…っ!」 やばい、泣きそうだ、俺。 「……ごめん、壱希。俺、それでも竜希の事が好きなんだ」 「……」 「ごめん、ね…」 何だか居たたまれなくなった俺は、拓海から離れ、無理矢理に笑顔を作った。 「…何か、急に変なこと言って悪かったな」 「壱希…」 「じゃあ俺先帰るわー」なんて教室を出た俺は、走って屋上へと向かった。 「…っはぁ…はぁ……」 バタンッと扉を乱暴に閉めて、その場に座り込む。 その瞬間、今まで堪えていた涙があふれだした。 強引に奪ってしまえたら、 (どんなにか良かっただろう)
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加