コロセウム

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コロセウム

 一瞬の視界の暗転。  立ちくらみの様な感覚にエリシアは僅かによろけて、そして何とか立ち直ると傍に居る筈の鬼腕の方へと視線を上げて、 「……いない?」  今居る場所はあの森の中にある石畳ではなく、どこかの訓練施設のようだ。大人数人分の高さを持つその建物は木造で、大きく取られた窓からは陽光が入り、薄暗さや空気の淀みなどはまったく感じられない。  仕切りはなく、建物が一つの部屋となっている。所々に長椅子や簡易寝台のようなものが置かれ、壁にずらりと並んだ木製の棚には、様々な武器が所狭しと置かれている。そしてそれらの隙間を縫うようにして身体を鍛えるための訓練用器具などが転がっていた。  地面は殆ど土がむき出しになっていたが、大部屋の一角には板張りとなっている場所もあった。そしてそこに、 「エリシア、こちらだ」  鬼腕が仁王立ちの姿勢で、こちらをじっと見ていた。      *** 「まず、ここが自分の持つ単書群『コロセウム』の中だ」  一段高い位置にある板張りの床へと上がりこんだエリシアに、鬼腕は淡々と話し始める。  コロセウム。意味は……。 「闘技場の事を指すようだ。何処の言葉かは知らんがな」  となると、この建物がその闘技場に当たるのだろうか。 「いや、ここはその闘技場へと向かう闘士達が控えるための場所だ」  成程と頷いて、エリシアは軽く辺りを見回す。  施設としては少なくとも十人以上が同時利用する事を念頭に置かれた規模のもの。しかし、ここに居るのは自分と鬼腕だけ。何処か空虚な印象を受けるのは致し方ないのか。 「今、自分達は書の空白部分に記名している形となっているからな。人が居ないのは諦めてくれ。一応お前には指導を兼ねて、闘技場での連試合辺りを一つやってもらおうと思っているのだが、先にお前と軽く手合わせをしておこうかと、な」  鬼腕は仁王立ちを解くと、みしみしと板張りの床を鳴らしながら壁際へと移動する。そこには幾つかの武器が吊るされていた。
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