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疎まれし花
何だあれは。
竜人、鬼腕と共に控え室から闘技場へと続く通路へと入り、暫く。闘技場と通路の境、区切りとなる小階段の手前までやってきたエリシアは、闘技場の中央でゆらゆらと揺れる不気味な影に思わず仰け反った。
「あれが、今回の対戦相手になる。この辺の下位の闘技場ではよく出てくる奴だ」
濃い色の煙のようなものが闘技場全体に充満していた。エリシアは目を凝らし、なんとかその煙の向こうを見通そうとする。
その影の正体は──どうやら花。植物のようだった。
「ここの運営側が品種改良して造った特別製でな。毒、猛毒、睡眠、あと石化。その辺の特別な効果を持つ花粉をばら撒いて、動けなくなった獲物を蔦で捕らえる。素人に毛の生えた程度の奴等相手に使われる、嗜虐趣味のある観客向けのショウ用という“設定”だな」
闘技場から、エリシアの名が呼ばれるのが聴こえた。どうやら出番らしいが、その話を聞いた後でこの煙の中へと突っ込むのは気が進まない。
鬼腕はこの相手と戦うとき、いったいどうしていたのだろうか。
助言役であると自分で言っていた鬼腕。それを期待し訊ねてみるが、
「戦ったことは何度もあるが……自分には毒とかそういったものは効かぬしな。これといったアドバイスはしづらい。お前自身が対策を練るしかない」
役に立たないにも程がある。しっかりしろ助言役。
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