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貫く者達
「来たか」
いつもの定位置。闘技場へと続く階段前で待機していたエリシアは、隣に立つ鬼腕の言葉に顔を上げて闘技場の方を見る。
闘技場を挟んで反対側にある通路ではなく、右手側にある木製の大柵がぎりぎりと音を立てて開き、その奥から巨大な物体が次々と姿を現す。どうやら、今回の敵は人ではなく獣であるようだ。
「獣というか、虫だな。ホーンビートル──鋭い角を武器として持つ大甲虫だ」
どうも『コロセウム』では、人対人の試合の他に、こうした力持つ大動物達との戦いが頻繁に組まれるらしい。
「人間同士がやり合うというのも良いが、ああした化け物を相手に小が大を克す戦いというのも見ごたえがある、という事らしいな。勿論、巨大な化け物が小さな人間を弄る様を喜ぶ客向けというのもあるが」
趣味の悪い話だが、そもそもこうした闘技場というものが、殴り合い、殺し合いを見世物にする類。所詮は程度の問題、今更どうこうという話でもないのか。
エリシアの言葉に、鬼腕も赤黒い肩を器用に竦めてみせる。
「この単書の話の原型は『大崩壊』当時から逆算してもかなり昔に作られた物語だと、箱舟の管理人殿に聞いた事がある。娯楽とは、古来より今まで常にそういうものなのかもしれんな──と」
闘技場に響く、エリシアを呼ぶ声。鬼腕は途中で言葉を切ると、ふむと唸って己の顎先を軽く撫でる。
「さて、では助言か。……エリシアよ、あの虫達の攻撃方法程度は推測できるか?」
問いに、エリシアは呆れたような顔。
どう考えても、あの頭部から長く鋭く伸びた角だろう。
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