古代羊の怒涛

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古代羊の怒涛

『コロセウム』の連試合。  それは円形闘技場群コロセウムにおける一般的な試合構成の一つだ。  簡単に言えば、五ないし六組を一集団として総当たりさせ、その勝利数を競うものだ。その中で一番成績の良い闘士には、栄誉と、コロセウム側から賞品などが贈られるらしい。  しかし、闘技場における戦闘は使用武器等に対する制限は非常に甘く、勝利敗北の判定も曖昧だ。総当たりというルールではあるが、実際は途中で脱落せず、最後まで組み合わせを消化できるかどうかがまず重要となる。途中三戦を全て勝利で飾ったとしても、次の一戦で死亡ないしその次の試合に参加できないほどの傷を負ってしまった場合、すべてが無駄ということだ。  ここでの重要な点は、全四ないし五戦を戦い抜いた中で、もっとも戦績の良い闘士に賞品を与えるという部分だ。  つまり、全組み合わせが終了する前に全ての闘士が戦闘不能となった場合、コロセウム運営側は闘士に報酬を払う必要もなく、更には賭けの胴元としても掛け金を総取り。この構造のおかげで、裏であれこれときな臭い暗闘があるとかないとか。 「なんていう裏の“設定”は、外から本の中にちょっと顔を出している程度の我々には関係ないがな」  闘技場へと続く廊下で、鬼腕はそう言って裂けた両の口を引きつらせて笑ってみせた。 「今回自分が選んだ連試合は、『コロセウム』の話の中では序盤に登場する連試合の一つだ。これが一番、戦いを学ぶ上で使いやすい。自分もこの書へと入り始めた頃は世話になった組み合わせだな。あの時は──」  その辺りの事はどうでもいいのだが、取り敢えず、自分は何をすればいいのか。  思い出話に入りかけた鬼腕をエリシアが冷静に止めると、鬼腕は素直に口を閉じて、ふむと長い顎を一撫で。 「何をといっても……今向かっている闘技場で、そこで待っている相手と戦えばいいだけだ。自分のアドバイスを参考にしてな。簡単なものだろう」  正に言うは易しそのままの口調に、エリシアは露骨に顔をしかめた。 「そう警戒する程の事もない。なに、少々やられたところで、栞を使って世界に忍び込んでいる我々だ、そう簡単に死にはしない。胸を借りるつもりでやればいい。……それで、今日の相手についてだが」
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