97834人が本棚に入れています
本棚に追加
/647ページ
俺はそんなゼウスを不思議に思い、顔を覆っていた手を上げて見ると、そこには歯を食いしばり、血が滲み出るほど強く拳を握り締めるゼウスの姿があった。
そこで俺は、口走ってしまったことを後悔した。
俺の人生は確かに、苦しいものだった。だが、苦しんでいたのは俺だけではなかった。
ゼウスも苦しんでいるのだ。
愛するものに裏切られたときの苦しみは計り知れない。
以前の俺ならそんなことは考えなかっただろう。
しかし今は、俺にも愛する者ができた。
もし俺がゼウスのように、裏切られることがあったら、同じように苦しむだろう。
まあ、ソフィアに限ってそのようなことは無いだろうが。
だから、俺はゼウスを許すことにした。
不幸なのは自分だけではない、そんなことは前から分かっていたつもりだったが、本当は分かっていなかった。
俺は改めて、それを実感した。
それからは互いに一言も発することもなく、この日の会話は終了した。
最初のコメントを投稿しよう!