序章~小笠峠~

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「ところでさぁ~、勁吾遅くない?」 奈美が言う。 勁吾というのは美咲の彼氏だ。 本名 藤井勁吾(フジイ ケイゴ) 彼の愛車はS15。 ドリフトが特に得意でコーナーの多い小笠峠では強かった。 ちなみにこの二人、中3から付き合っている。 「勁吾のことだからまた流してるんでしょ」 美咲が言う。 最近、勁吾は峠での待ち合わせの時に走ってからパーキングに来ることが多かった。 だが、走りすぎて時間に遅れることも多々あった。 クゥゥゥウウウゥン…クゥゥゥウウウゥン… 「あっ、来たね」 奈美が音に気づく。 「ねぇ、もう一台音聞こえない?」 「えっ!?」 美咲の問いに奈美はもう一度耳を澄ます。 クゥゥゥウウウゥン……クゥゥゥウウウゥン… キイィィイイィン……キイィィイイィン……… 「本当だ…。 しかもこの音は…」 奈美が驚く。 驚いたのは特徴的な排気音だけではなく、小さな音も聞き逃さない美咲の聴力にもだった。 そんなことにはお構いなしに美咲はしゃべる。 「ロータリーだけだよね」 「でもこの峠でロータリー乗ってる人と言えば…」 「彼しかいないでしょ」
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