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「ちょっと、あんた達! 見て来なさいよ」
中年の婦人が立ち上がって喚いた。
「そうだ、そうだ。誰かパトカーに掛け合って来いよ! バスが通れるだけ、道をあけてくれって」
乗客は苛立ち、口々に勝手なことをがなり合って、車内は騒然とした。
「うーん。高速道路じゃ、降りて歩くわけにもいかんし、タクシーも拾えんしなあ。弱ったな。明日は娘の結婚式があるんだ」
恰幅のいい初老の紳士は、誰に言うともなく事情を語った。
乗客の幾人かは、携帯で連絡を取り始めている。
「トラックと軽4輪の事故らしいぜ」
窓を開けて覗いていた乗客の一人が首を引っ込めて言った。
「死んだのかな?」
「ああ、たぶんな。軽4輪の方はぺしゃんこだ。あれじゃ生きちゃいないだろう」
「旅行の帰りに死人だなんて、縁起でもねえなあ、まったく」
「おい! 良ちゃん、起きろ! 寝てる場合じゃねえぞ。大変なんだ」
良太は清次郎に肩を強く揺さぶられ、目を覚ました。
「俺は、やってない……」
「なにを言ってる。事故だよ。なんだ? 大汗かいてるじゃねえか。具合悪いのか?」
清次郎が良太の顔色を確かめるように首を曲げた。
「えっ? ああ、すみません。到着ですか?」
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