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「なに言ってんですか! そんなことしてませんよ」
良太は、強い口調で否定した。
「いーや、素直に吐いちまいな。隠し立てされると、俺はムキになる性質なんだ。おまえさん、髪結いの亭主だからな。本当は、そんな生意気なことは出来ない立場だろう。この女たらし! カミさんにバラしちまうぞ」
「ち、違いますよ!清さん、はなし作らないで下さいよ」
「いーや、そのうろたえぶりが怪しい。決め技は何だ! 松葉くずしか? 仏壇返しか? 帆かけ船か? この野郎、とぼけた顔して抜け目のねえ奴だ。羨ましいじゃねえか」
「あはははっ」
「うぷぷぷーっ」
「ひーっ」
車内のあちらこちらから笑い声が上がった。
「いや、そんな、あははじゃなくて……」
良太が抗弁しようと立ち上がった。
「ちょっと、あんた達! 何やってんのよ! まっ昼間から大声で、まんぐり返しとか言ってんじゃないわよ。いやらしい!」
中年婦人が睨んでいた。
「なんだよ、オバサン。まんぐりぐりぐりなんて言ってねえぞ。何なんだ、その荒っぽそうな技は? 忍者じゃあるまいし」
「そ、そんな! 清さんも、止めて下さいよ、そんな大声で。勘弁して下さいよ、もう」
良太が泣きそうな顔で懇願した。
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