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そこには、まだ午前中だと言うのに、スーツを着たまま立ち尽くす海斗がいた。
大平さんは慌てて椅子から立ち上がり頭を下げる。
「お帰りなさいませ旦那様。」
「お帰りなさい!どうしたの?さっき出社したばかりじゃ…」
言いながら駆け寄ってびっくりした。
海斗の顔が真っ青だったのだ。
「海斗…?」
具合でも悪いのかと、おでこに手を伸ばす。
「あいつはどこだ?」
その手を止め海斗が呟くように言った。
「え……?」
その声がいつにも増して真剣で、胸がざわつく。
「あいつって…王子?王子ならさっき公務があるとか言って出て行ったけど…」
「っ…くそ…」
ガンッ!
珍しく苛立った様子で海斗が近くのソファーを拳で叩いた。
「え…王子がどうかしたの?」
「……」
「海斗?」
「あいつを今すぐ追い出す。」
え……?
「騙されたんだよ。外交なんかじゃない。あいつは…あいつを抹殺しようとしている連中から逃げるために日本に来たんだ。」
抹殺…?
聞き慣れない言葉に頭がついていかない。
ただ海斗の真剣な顔が、それが嘘ではない事を物語っていた。
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