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「…公務で見る『王』は、本当に素晴らしかった。笑顔を絶やさず、国民一人一人にまで目を配り…。こんな王になりたい。…私は心からそう思った。」
遠い目をして、王子が苦笑する。
その時の事を思い出しているのだろう。
「だが…そんな素晴らしい王の血を受け継いでいたのは私だけではない。愛人の子も優秀な者ばかりだった。…比べられ、それでも王の背中を追う自分を嘲笑うようになったのはいつ頃からだったか…。そして追い討ちをかけるように今回の事態だ。」
両手を広げ、王子が降参のポーズをした。
どんな気持ちで語っているのか。
それを考えるだけで胸が痛い。
…好きで命を狙われているわけではない。
産まれながらにして王になる宿命を負い、それなのに尊敬する王の不貞で自らが苦しめられる。
しかし泣き言は許されず…周りは期待だけをかけてくるのだ。
どれだけ苦しく孤独な戦いなのか。
私には想像もつかなかった。
「…父さんなんか、大嫌いだ。」
ポツリと呟いた顔の悲しさに、胸が締め付けられる。
言葉では嫌いと言っていても…潤んだ瞳はそう言っていなかった。
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