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「ふ、ふ、ふふふふ、ふ、ふ、ふふん! あら航。それ、な、あ、に?」
「…………っ!?」
適度に潤っていた筈の喉は、砂漠に落とされた水滴のように瞬時に干上がった。
ボトリ、と力の入らなくなった手から『日記帳ニジュウマル秘』が落ちる。
航人は部屋に入ってきた何者かを確認出来ない程、全身が硬くなっていた。
腕も、足も、目も、指も、唇も、首も、手も、舌も、膝も、眉も、肩も、心臓も。
航人の全身という全身が。
まるで何かが既に終わったかのように、死後硬直のように、微塵も動かなくなっていた。
震えることも出来ない。
もちろん泣くことも出来ない。
漠然とした、不明瞭な恐怖も確かに恐怖だが。
しかしそれは、具体的な、暴力的な、肉体的な恐怖には遠く及ばないだろう。
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