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「か、く、う」
航人は呻きながら、目を見開いた状態で『恐怖』から逃げようとしたが。
「う、っ」
その存在のどうしようもなく絶対的で、途轍もない恐ろしさを前に。
純然たる殺意を少しも隠すことなく撒き散らすその存在の前に、航人は。
腰が抜けてしまっていた。
「逃げられない」という絶望と諦観が、航人の脳内を瞬間的に駆け巡る。
体中から血の気が引き、体温が下がっているのがはっきりと分かる。
――終わった。
そんな言葉が、茫然としている航人の脳裏にふと浮かんだ。
梓は航人を見下ろして、死刑宣告をする裁判官のような静かな声で言う。
「ねえ、航。フ〇ク船長の腕って、すんごく格好いいと思わない?」
「お前……俺の腕に何をするつもりだ!?」
そんな航人の涙混じりの叫びも虚しく。
梓の拳がしなやかに、ぶん、と航人に向けて振り下ろされた。
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