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苦しいねと囁かれた言葉はきっと私が理解することの無い言葉だったはずでした。
長いことこの場所に立っているおかげで人間の言葉も少しは理解できるようになり、私は私なりに人間のことを考えるようになりました。
私は街路樹というらしいのですが、もとはただのケヤキでした。
苗木の時にこの場所に植えられ、以来ずっとこの場所に居ますが、空は狭くなるばかりです。
人間がたくさん世話をしたビルとかいう樹木はあっという間に私の背丈を追い抜き、空を切り抜いて影を落とします。
どれだけ空に手を伸ばしても、人間が腕を切り落とすので空は掴めないまま、私はずっとこの場所に立っています。
小鳥が白昼の戯れに羽休めをすることも、人間が私の根本に何かを置き去りにすることも、私は知っていましたが、私自身は動けないのでどうしようも無く、ただ流れるままに時を過ごしています。
私に許されるのはただ空に無数の腕を伸ばすことだけなのでしょう。
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