第零話

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   快調にリズムを刻んでいた靴音がピタリと停止した。目的地の扉の前。掛けられたプレートには、俺たちにとって特別な意味を持つ文字列が記載されている。  特に目立つわけでもなく、廊下の景色に溶け込んだ俺たちの城。  何をやらかすにしても、始まりはいつもここからで、何をやらかしたにしても、最後はいつもここに戻ってくる──そんな場所。 (……やっぱ、部室ってのはいいもんだな)  ノックはいらない。合言葉もいらない。必要なのは、扉を開く勇気だ。  開けばあいつが待っている。あ、でも、もしいなければ──と、中に誰もいなかったときのために、誰もいない室内をあらかじめ思い浮かべ、心に保険をかけるのは忘れずに……。 「よし、行くか」  決意を吐いて、俺はドアノブに手をかけた。  扉の開放に伴って、プレートに刻まれた『紋章維新会』の文字が、今日も揺れる。  
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