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俺の叫びがグラウンドにこだまし、それと共に視界がカッと開けた。目の前にはニヤニヤしながら俺を見上げる先程の女と、同じくニヤニヤと俺を見る茶色いボサボサ頭の男。
「なによ。こっちは死んだと思ってヒヤヒヤしてたのに」
「嘘つけ」
女は指通りの良さそうなブロンドの髪をなびかせて、やれやれとでも言いたげに溜息をはいた。エンゼルならではの透き通った高音で響くこいつ──紋章維新会会長獅子王リオの溜息には、不覚にも聴覚が吸い寄せられてしまう。
「ま、これから死ぬかもしれないけどな」
「軽い口調で物騒なこと言うな」
男は爽やかスマイルを顔面に貼り付けている。こういう笑顔のやつは一見すると底が知れない大物のように見えるのだが、こいつは何も考えていないようで、やっぱり何も考えていないタイプの人間である。
ちなみにこの男──グランは、リオみたくスコアを詠唱する詠唱師ではない。クレストやスコアの使用に便利な装置を作成する『技師』と呼ばれる存在である。
「さあ、シュウ。覚悟を決めてクレストの真ん中に立つのよ。会長命令!」
リオはびしっと俺の背後の空間を指差し、権力を振りかざした。そこには人一人が寝転べるほどのクレストが、地面に描かれている。
「やだ! 5時19分48秒で死にたくない!」
俺はぶんぶんと全力で首を横に振る。
「はあ? 5時19分? そんなわけ分かんないこと言ってないで、ほら! だいたいシュウが描いたクレストでしょ。自分に自信を持ちなさい!」
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