第1話

6/18
前へ
/29ページ
次へ
   そう、確かにアレは俺が描いた。グラウンドに到着するや否や、リオとグランに「よろしくお願いします!」と頭を下げられ、作成した。なかなかに自信作だ。学科主席の天才紋章師であるこの俺が描いたクレストに欠陥などあるはずが無い。だが問題なのは、 「クレストじゃなくてスコアが信じられないんだよ! なんでリオがドラゴンスコア詠唱しようとしてるの? エンゼルなのに!」  俺はグラウンドに出てから幾度目か分からないほどに問い続けている疑問を、再びリオに投げかけた。これは大問題なのである。  女性の詠唱師を『エンゼル』と呼ぶのに対して、男性の詠唱師を『ドラゴン』と呼ぶのだが、そもそもなぜこのような区別をしているのかというと、それはスコアに原因がある。  エンゼルが詠唱するスコアは『エンゼルスコア』と呼ばれ、かなりの高音での詠唱を必要としている。これに対して、ドラゴンが詠唱するスコアを『ドラゴンスコア』あるいは『龍言総譜』と呼び、こちらはかなりの低音での詠唱を必要としているのだ。  つまり、エンゼルスコアは女性でなければ声が届かず、ドラゴンスコアは男性でなければ声が届かないのである。  まあ、例外的にドラゴンスコアを詠む女性もいたりするが、そういう人は逆にエンゼルスコアが詠めるほどの高音が出せない。大昔には、両方のスコアを詠める詠唱師が一人だけいたそうだが、話だけで実在したという証拠はどこにも無いのである。  それをこの女は、今からチャレンジしようとかぬかしていやがるのだ。俺がクレストを描き上げた直後にそれまでの殊勝な表情を一変させ、にぱっと笑ってそれを宣言しやがった。  
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加