プロローグ

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   さて、そんな人生の早朝をひた走る俺──愛絵秀一郎(まなえしゅういちろう)という一生命体は、今をどう感じているのか? いくら云々と講釈をたれようとも、最も大事なのはそこである。  ──結論から言おう。  現状に非常に満足しているということは、疑いようの無い事実だろう。学校での授業はそれなりに楽しいし、友達も結構多いほうだと思う。それだけだったならばただの平凡な一学生なのだろうけど、幸運なことに最近では刺激的な知り合いも二人ほど増えた。  彼らのおかげで、俺の学園生活は平凡なものからは少々かけ離れてしまったものの、単調な毎日と比べれば遥かに魅力的な生活を送れていると言わざるを得ない。  真に順風満帆。この日々が永遠に続けばいいのに──と数年後に訪れるであろう学生生活の終焉を拒みたくなるほどに、今の俺は日常に満足している。  しかしながら、この世界はまだまだ現状に満足していないらしい。日々是精進と言わんばかりの勢いで、世界各地では様々な研究が行われ、その分野の様相がめまぐるしく変化しているのだ。  ……で、そのなかでも最も研究が盛んなのは、やはり人生時計──ではなくて、『紋章学』であると俺は考えている。  まあ、なんといっても紋章学にはロマンが詰まっているから当然だろうな。クレスト一つでそこから事象を引き起こせるんだぜ? カッコイイじゃないか。しかもそれはこの世界からじゃない。まったく別の世界からの力が発現しているのだという。  ──ここと何所かをつなぐ扉。  それを探求することは、幼稚な言い方だが、なんだか物凄くワクワクするのだ。扉の先がどこに繋がっているんだろうとか、もしかしたら誰かが待っているんじゃないだろうかとか……。まあつまり、クレストは夢だな。俺にとっては。  
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