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暗黒の世界は何も映し出さない。だが、闇に飲まれた少年が感じたのは恐怖でも不安でもない。
……ポチャン……ポチャンと、足元で水が跳ねる。暗くて見えないが水溜まりは少年の腰まである。
――ここは何処らへんだろうか。疲れ切った身体では、そう長くは立って居られない。
「早く探し出して司令塔を倒さないと」
少年が機械的な声で言うと、次第に空間は明るくなる。そして霧状の闇が晴れてきたとき、少年を鋭い眼光で見詰める影がいた。
「ははっ……やっと現れたか。無理矢理誘い込んどいて姿を現さないもんだから、此処から一生出られないのだと思ったぞ…」
魔神。そう言葉を続けた少年は安堵と殺意が混ざったような目をしていた。
『っ……っ……っふふふ……』
「何が可笑しい。殺されると分かって気でもふれたか?」
魔神の肩が小刻みに震える。それが笑いを堪えていたのだと分かり、少年は怪訝な表情で笑い返した。
だが、その笑いは魔神の『一生……お前は此処から出られんよ』という言葉で沈黙する。
――何を言ってるんだこの魔神は? まさか最後の最後でそんな出任せ。通用すると思ってるのか。魔物を指揮するような魔神様が呆れたものだ。
「お前を殺すことで俺の任務は完了する。その後に魔力でもってこの空間を破壊するさ…」
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