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少年が腰にぶら下げられた鞘から剣を抜く。鞘には二頭の龍が剣を守るように装飾されている。
それは、王直属の護衛役のみに許される龍の刻印だ。
『ふっ、王様の飼い犬が何を早まっているのか知らんが……』
魔神は少年を嘲笑う。小馬鹿にした態度に、少年はこれといった感情は見せないが、よりいっそう眉を潜めた。
『死んだ魔神まで倒せまい』
――死んでいる?
魔神の言動を理解出来ていない少年は、現状を再確認する。だが、魔神が死んだという根拠は見当たらない。
『そうだ、私が死んだという証拠はそこから見ても分からないだろう。……しかし事実。私たち魔神に貴様を葬るだけの力は無いが、貴様を閉じ込める魔法がある』
一拍置いて、魔神が呟いた。
『閉鎖空間。私の魔力では足りず、私の生命力と上位魔族の大半を使い果たして完成した空間だ。我々が自身に使用しても貴様が外側から破壊するだろうから、貴様自身に使用することを余儀無くされた。私は既に思念体……貴様の姿を確認したから直ぐに消える』
魔神の言葉に、少年は目を見開き驚愕した。次に肩を震わしたのは少年である。
「……命を使い果たし、命を生かす魔法?」
閉鎖空間の中では不老不死を得る代わりに、人間が人間であるという自覚が奪われる。
食事も睡眠も必要ない。朱色の空は光の欠陥品。陸地は四畳ほどある。
ある意味で、戦い続けた少年には安息の大地なのかもしれない。帰還すれば、また機械的な日常が待っている。
――死に物狂いで戦い。たどり着いた場所は安息の大地。
昔居た場所とは天と地以上の差がある。もうあの場所に戻る理由などは無いのだ。
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