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その頃、210号室では木下がベッドに座りながら、時計を見つめていた。
時刻は二時五十分を回り、三時へのカウントダウンが始まっていた。
「残り時間もあと僅かだな」
落ち着かないのか、立ち上がっては座り、座っては立ち上がりを繰り返していると、外から扉が閉まる音が聞こえてきた。
「扉の音?」
――あれ?
こちら側の客室棟は俺と豊田奈緒美だけの筈……
「まさか、目覚めたのか!?」
様子を見に行くべきか?
ここで大人しく待機しているべきか?
「えぇい!! くそっ!! 外にいる間は監視、保護するのが俺の仕事だろが!! しっかりしろ、刑事木下紀人」
木下は自らを鼓舞する自問自答を呟き、自室の扉を開けて通路に一歩踏み出した。
静まり返った通路は、自らの鼓動と呼吸さえも耳障りに感じさせる。
緊張からか、いやに渇く唇。
木下は210号室から212号室前までの数メートルがとてつもなく長く感じられた。
部屋の前まで行き、カードキーを差し込むと、ノブを静かに回した。
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