葵と流砂

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「この市井探偵事務所って、浅人君のご両親がやってるの?」 「いや俺の祖父の事務所。っていってもスタッフ少なくて、俺だけが好きで駆け回ってるようなもんだけどね」 「そうなんだ‥」 私は小久保や真中の言っていた、『井坂』という名前がずっと引っかかっていた。 小久保は浅人のことを『井坂のせがれ』と言っていた。 なら本当は井坂浅人?じゃあ市井は? 真中に名前をいじられて、浅人は語気を荒らげていた。 あの反応を目の当たりにすると、私なんかが呑気に質問できるとは思えない‥。 車外を流れるネオンをぼんやり見つめる紗弥。 さまざまな思考を巡らせているであろう浅人。 そして空気を読んで躊躇うことしかできない私。 大学生が集まった週末の夜に不似合いな静寂が、車内を満たしている。 本当ならこんな時間を過ごす必要なんてない。 くだらないことで笑ったり、紗弥や浅人の非常識っぷりをいじりたおしたりしてるはずだ‥。 私にはこれからの捜査の展開を見透すことはできない。 犯人を捕まえることもできない。 犯人が誰なのかさえわからない。 紗弥を支えてあげるので精一杯。 でも犯人は絶対に許せないし、一刻も早く弥紗さんを取り戻したい。 けど私にはそれができない。 自分が無力だとハッキリ突きつけられ、自己嫌悪に陥りそうだ。 アリ地獄に捕まりもがくことしかできない、脱出できない負の連鎖にただ引きずりこまれてしまうのだろうか。 私はまた何にも縛られず笑いあうことができる? かけがえのない大好きな友人とともに。 NEXT‥
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