伝法屋一生という兄貴

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午前中の退屈な授業を一通り終えると、俺はすぐさま逃避の元へ向かった。 「逃避」 声をかけても反応が無い。 結局、逃避は登校してから今の昼休みまで、一度も机から顔を上げる事はなかった。 「逃避、いい加減顔を上げろ。何かあったなら話してみれば良いじゃないか」 「……10人だぞ」 うっかり聞き逃してしまいそうなか細い声が耳に入る。 それが目の前で机にしがみ付く逃避の声だと気付くのに、少しばかり時間がかかった。 「何が?」 「相手の、数がだ。10人…たった一人相手に10人だぞ。そんな、そんなのって卑怯だろ…ありえねえだろ…。しかも俺は何もしてない…そもそも俺からは何もした事なんか無い。それなのに、こんな、こんな酷い事があるか…神様は理不尽だ。不平等だ。俺にばかり試練を与え過ぎだろうがよ。これじゃあ乗り越える前に死んじまうじゃねえか。ああ、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…」 ぶつぶつと呪咀のように呟く逃避に、俺は少なからず同情する。 彼は謂わば被害者なのだ。 「…相手の足の骨を折ってなきゃ、今頃俺はきっと死んでたぞ。ああ怖ぇ…」 そう、例えどんなに加害者でも、火除逃避は被害者なのだ。
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