伝法屋一生という兄貴

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朝のチャイムが鳴り、皆いそいそと席に着き始める。 やがてHRも終わり、いつも通りの授業が開始された。 生徒たちは多少ふざけあいながらも、大した問題も無く授業を受ける。 いつも通りの光景。 そして ガラ、 唐突に教室の扉が開く。 これもいつも通りの光景。 「………」 所謂不良の出で立ちをした彼は、開けた扉を乱雑に閉めると、無言で自分の席に着いた。 そして、やはり何も言わずに机へ突っ伏す。 無論教師は気付いていたが、暫くの沈黙の後、何事も無かったかのように授業を再開した。 君子危うきに近寄らず、というやつだろうか。 「…逃避」 不良の彼、火除逃避(ひよけとうひ)の名を呼んでみるが、ちらとこちらを見たのみで、それ以上の反応は無かった。 多分、また不良に絡まれたか、あるいは喧嘩を売られたかしたのだろう。 何せその容姿だ。それも仕方ない。 きっと喧嘩を売った相手は思ってもいない事だろう。 火除逃避が、人見知りで弱虫でチキンな臆病者だとは。
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