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私が元気を飼い始めたのは、去年の夏祭りのことでした。私は、お父さんとお母さんと一緒に、近所の神社のお祭りに行ったのです。
普段の神社は、石畳が真っ直ぐに延びて、お年寄りがお散歩するためだけのような広場なのですが、この日は違っていました。
聞いたこともない音楽(お父さんは祭りばやしと言ってました)が流れ、石畳の両脇には色々なお店が並んでいました。
私が使えるお小遣いは700円で、700円もあれば、コンビニでもスーパーでも、好きなお菓子が買えます。だから私は、りんご飴とチョコバナナと綿飴を食べるつもりでした。もしお小遣いが余ったら、お店のプロが作ってくれる焼きそばも食べてみようと思ってました。
けれど、チョコバナナのお店に行くと、とても高かったのです。
「お母さん、バナナって、一本何円するものなの?」
私はお母さんの浴衣を引っ張りきいてみました。分からないことは何でもききなさいってお父さんはいつも言ってます。だから、お母さんも答えてくれます。
「そうね、一房でも300円かしら?一本当たりで計算すると、50円もしないんじゃない?」
お母さんは、わざと難しい言葉で答える癖があるようです。私を子供扱いしないのです。
「一房って?」
「まとまりのことだよ」
今度はお父さんが答えてくれました。
「バナナはまとまって売られてるだろ?一つのまとまりのことを、バナナでは一房って言うんだ」
私は、お父さんの説明の方が分かりやすくて好き。だけど、子供扱いされてるようで、やっぱりお母さんに聞いちゃいます。
「買わないの?」
お母さんが私に聞きました。
「うん。やっぱりもう少し考える」
私はチョコバナナの値段について考えていました。どう考えても高いのです。ぼったくり、という言葉がピッタリです。
このことをお母さんに聞いてみたかったけど、大人はお金の話をしたがらないから私は聞けませんでした。
私が迷っていると、お父さんとお母さんは顔を見つめあって笑いました。どうして笑ったのか、私には理解できません。
「どうして笑うの?」
私は二人に聞きました。すると、お父さんとお母さんは、もっと大きな声で笑い、楽しそうに微笑みました。
「それはね、藍華がかわいいからだよ」
やっぱりお父さんは、私を子供扱いしています。
せっかくお母さんがセットしてくれた髪をくしゃくしゃに撫でました。
私は悔しくなって、お父さんを睨みました。
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