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毎朝、私は元気の金魚鉢に行きます。元気の朝ご飯と夕ご飯は私があげることになっているからです。
元気におはようって言いながら、餌をあげるのです。
けれど、金魚鉢に元気がいなかったのです。
それだけではありません。
汚れていた金魚鉢がピカピカに洗われていて、水もポンプも海草すらも入ってませんでした。
まるで、新しい金魚鉢をそこに置いているような状態です。
私はお母さんにききました。
なんで勝手に洗ったの?
元気はどこにいるの?
と。
するとお母さんは、今度はデメキンを飼おうね、と寂しそうに言ったのです。
それがどういうことか、私は理解しました。
「やだ!」
私は、自分でも驚くくらいの大きな声を出していました。
「 元気じゃなきゃ飼いたくない!」
「きっと元気も、天国で藍華とおんなじように悲しんでるのよ。でも、天国にいっちゃったんだから、藍華にはもう会えないの。藍華が悲しいように、元気だって悲しいの」
私は、うん、とは頷けませんでした。こういう時に頷くのが立派なお姉ちゃんなのに、私にはできなかったのです。
まだ、私には、弟を迎え入れる心構えができていなかっのです。
元気のためにも、お母さんのお腹にいる弟のためにも、私は強くならないといけません。
頭では分かっていても、どうしてもできなかったのです。
悔しかったです。
元気のいない金魚鉢を見て、
元気の金魚鉢で、元気ではない金魚が泳いでいることを考えると、
私はとても悔しかった。
ただ、元気の死を認めたくなかったのかもしれません。
元気のための金魚鉢なのに、
元気がいないのです。
私は、元気を生き返らせて、と駄々をこねました。
そうすれば、お母さんが怒ってくれるから。
私は、お母さんに怒られたかったのです。
思い切り怒られて、私はお母さんの胸で思い切り泣きたかった。
けれどお母さんは、私を怒りませんでした。
抱き寄せてもくれません。
元気を生き返らせて、と言う私に、ちょっと困った顔をして、なにも、言葉すらも、かけてくれませんでした。
それは私にとって、とても悲しく、とても寂しいことだったのです。
「ねぇ、お母さん。私、絶対に死なない生き物を飼いたい」
だから私は、そう冷たく言ったのです。
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