元気のいない金魚鉢

3/3
前へ
/6ページ
次へ
毎朝、私は元気の金魚鉢に行きます。元気の朝ご飯と夕ご飯は私があげることになっているからです。 元気におはようって言いながら、餌をあげるのです。 けれど、金魚鉢に元気がいなかったのです。 それだけではありません。 汚れていた金魚鉢がピカピカに洗われていて、水もポンプも海草すらも入ってませんでした。 まるで、新しい金魚鉢をそこに置いているような状態です。 私はお母さんにききました。 なんで勝手に洗ったの? 元気はどこにいるの? と。 するとお母さんは、今度はデメキンを飼おうね、と寂しそうに言ったのです。 それがどういうことか、私は理解しました。 「やだ!」 私は、自分でも驚くくらいの大きな声を出していました。 「 元気じゃなきゃ飼いたくない!」 「きっと元気も、天国で藍華とおんなじように悲しんでるのよ。でも、天国にいっちゃったんだから、藍華にはもう会えないの。藍華が悲しいように、元気だって悲しいの」 私は、うん、とは頷けませんでした。こういう時に頷くのが立派なお姉ちゃんなのに、私にはできなかったのです。 まだ、私には、弟を迎え入れる心構えができていなかっのです。 元気のためにも、お母さんのお腹にいる弟のためにも、私は強くならないといけません。 頭では分かっていても、どうしてもできなかったのです。 悔しかったです。 元気のいない金魚鉢を見て、 元気の金魚鉢で、元気ではない金魚が泳いでいることを考えると、 私はとても悔しかった。 ただ、元気の死を認めたくなかったのかもしれません。 元気のための金魚鉢なのに、 元気がいないのです。 私は、元気を生き返らせて、と駄々をこねました。 そうすれば、お母さんが怒ってくれるから。 私は、お母さんに怒られたかったのです。 思い切り怒られて、私はお母さんの胸で思い切り泣きたかった。 けれどお母さんは、私を怒りませんでした。 抱き寄せてもくれません。 元気を生き返らせて、と言う私に、ちょっと困った顔をして、なにも、言葉すらも、かけてくれませんでした。 それは私にとって、とても悲しく、とても寂しいことだったのです。 「ねぇ、お母さん。私、絶対に死なない生き物を飼いたい」 だから私は、そう冷たく言ったのです。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加