魂の変換

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しかし僕とアキラが驚いたのはそこではなかった。 「タクちゃんの葬式の時の…」 僕は小さく呟いた。 その姿は葬式の時、跪いて泣いていた彼女だった。 その丹精な顔立ちは見間違える事はなかった。 僕はアキラの方をチラリと見やる。 アキラは目を見開いて彼女を指さしている。 しかし僕が見たのはその一度だけではなかった。 会社への路地裏でも一度彼女を見ていた。 その時の表情からは別人のような印象すら受けていた。 壇上の彼女は深く一礼する。 「今日から皆さんの担任になる吉野奈々(ヨシノナナ)と言います。まだまだ半人前ですがよろしくお願いします。」 再び彼女は頭を下げた。 教頭はパチパチと拍手を求める。 それに呼応するようにクラスに拍手が沸き起こっていく。 そして再び教頭が弁をとる。 「吉野先生には清水先生の後をついで現国の教鞭を取っていただきます。みなさん大人しく授業を受けるように。それでは先生、よろしくお願いします。」 それだけ言うと教頭は教室から出て行った。 吉野先生は教頭が教室を出て行くのを見送ると改めて背筋を伸ばした。 「えーっとそれじゃあ184ページを開いて下さい。」 幾分か緊張した面持ちで彼女は授業をし始めた。
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