14人が本棚に入れています
本棚に追加
その後彼女はそつなく授業をこなしていく。
少しの緊張感が伝わってきて生徒と教師の間を色濃くする。
まるで随分前からこのクラスの担任だった様な錯覚すら覚えさせていた。
チャイムが鳴り短いような時間は終わりを告げる。
「はい、じゃあ今日はここまでにします。」
彼女は皆に悟られないようにふーっと一息ため息をついた。
授業が終わるとクラスメートの女子達が彼女の周りを取り囲む。
「先生きれーい。」
「彼氏いるのー?」
ワイワイ騒いでいるクラスメートの中心で彼女は苦笑いを浮かべて質問をはぐらかしていた。
その様子を見ながら男子たちは遠巻きにその様子を見つめるだけだった。
すると僕の背中から突然声が聞こえた。
「おい、庵。」
他に意識を集中していた僕は突然の呼びかけに体を強ばらせる。
振り返るといつの間にかアキラがそこにいた。
「なんだよ?」
「吉野先生ってあれだよな。葬式の時泣いていたあの人だよな。」
率直に聞いてくる。
「ああ、そうだよ。それがどうかしたのか?」
「やっぱり分かってたのか。」
「先生やってたんだな…タクちゃんと一緒だ。」
僕はなおも質問責めにあっている吉野先生に目線を移した。
「いったいどんな気持ちなんだろうな。タクちゃんと同じクラスなんて…」
アキラがしみじみと言った。
壇上の彼女は皆に囲まれて笑顔だった。
最初のコメントを投稿しよう!